法律サービスの次なる革命 AI が事務所の専門的価値を再構築する
- joanfan9
- 6月18日
- 読了時間: 11分

技術はすでに生活のあらゆる面に深く浸透しており、専門的な法律分野も例外ではありません。1960 年代には、アメリカの法律界で「リーガルテクノロジー」が登場し、技術やソフトウェアサービスを通じて法律関連業務の利便性を向上させてきました。これには、法律事務所の内部運営支援として、文書の自動管理、請求、会計、電子証拠の開示などが含まれます。近年では、AI 技術の急速な発展により、リーガルテクノロジーの応用範囲がますます拡大し、より前線の法律サービスへと広がっています。
文書と知識管理から従業員の生産性向上、さらにはデータセキュリティとプライバシー保護に至るまで、AI ツールは弁護士の業務においてより頼もしい支援役を果たすことができます。
紙からデジタルへ、文書管理のデジタルトランスフォーメーション
書類および知識管理において、台湾トップ 3 の法律事務所の一つである常在国際法律事務所は、創立 60 周年を迎えるにあたりデジタルトランスフォーメーションを開始し、運営効率強化のために積極的にAI技術を導入しています。代表弁護士の林香君氏は次のように述べています。「デジタル技術とAIの全体的な進展に対応し、2024年より段階的に Microsoft 365 およびAI支援ツールの Copilot を導入し始めました。」
これらの新しいツールは、日常の管理やワークフローに主に活用されており、個々の弁護士のスケジュール管理、タスクコントロール、文書作成などが含まれます。AI ツールの導入により、文書処理の効率も著しく向上しました。「誰もが互いの修正内容をリアルタイムで確認できるため、混乱が減り、ミスも減少し、効率が確実に向上しました」とパートナー弁護士の王韋傑氏は述べています。これまで何度もやり取りが必要だった契約書の修正も、共有編集機能によって、よくあるバージョンの混乱や重複したコミュニケーションの問題が解決され、契約修正のプロセスが簡素化され、法律サービスの全体的な効率が大幅に向上しました。
データ管理において、北米地域とアジア地域では認識やイメージに違いがあります。法律事務所向けのソフトウェア開発および SaaS サービスを提供するティードテクノロジー(鈦度科技)MATTEROOM の創業者兼 CEO であるスティーブン・ワン氏は、長年にわたり欧米市場の動向を観察してきました。彼によると、現在アジアの法律事務所は知識をテンプレートや文書の集合体として捉える傾向がありますが、北米の法律事務所は知識により完全な「コンテキスト情報」を含めるべきだと考えています。例えば、通話記録、クライアントとのメール、作業グループのチャット内容、タイムシートなどの作業記録や提案です。これらの再構築可能な実務経験こそが、真に蓄積・転換可能な資産であるため、知識管理は単純なテンプレート構造にとどまってはなりません。彼は「効果的な知識管理システムとは、情報アーキテクチャの考え方を用い、各案件をひとつのデータセンターのように管理することだ」と提案しています。これにより、将来のデータ検索が容易になるだけでなく、チームメンバーの異動があっても、すべての業務成果が事務所内に保持され、知識資産の流出を防ぐことができます。
精密な管理と AI 支援による生産性向上
システム化された方法に AI ツールを組み合わせることで、法律事務所の文書および知識管理がより便利になります。従業員の生産性や時間管理に関しても同様の方法で管理が可能です。林香君弁護士は、「法律事務所が Microsoft 365 システムを全面導入したことで、内部管理はより精密かつシステム化され、統合型のデータ分析ツールを用いることで、これまでの個人単位の散在したスケジュール管理から脱却し、事務所は弁護士の業務成果やリソース使用状況をより包括的に把握できるようになった」と述べています。
スティーブン・ワン氏は、MIRA のような AI による時間記録ツールについて紹介しました。このツールは、カレンダー、Outlook、Word の文書操作、通話記録など、弁護士が使用するさまざまなアプリケーションの活動を自動的にキャッチし、正確な工数表を生成します。これにより、忙しくて時間を記録できないという問題を解決します。また、AI ツールはリアルタイムかつ視覚化されたデータを提供し、パートナーがチームの実際の貢献度や運用効率を明確に把握し、的確な経営判断を下せるようにします。これについて林香君弁護士は、「現在、事務所では次の段階として、AI を請求システムや財務データ分析などの管理面に応用することを検討しており、各弁護士の生産性と利用率を把握し、資源配分と運営効率の最適化を目指しています」と率直に語っています。
また、AIツールは法律事務所の利益相反チェックの効率化にも貢献しています。スティーブン・ワン氏によると、市場には法律事務所向けに開発された「アンサーエンジン」があり、新しい案件を引き受ける際の「利益相反チェック(conflict search)」を支援しています。「欧米の競争が激しい法律市場では、利益相反チェックの迅速な完了が、案件の受注成功の鍵となることが多いです。AIツールは、従来の手作業によるチェックを大幅に短縮し、事務所が迅速にクライアントのニーズに応えることを可能にします。」データのデジタル化は、専門性と効率化に向けた第一歩であり、システム化された管理と AI 技術の支援により、AI を活用した「利益相反チェック」を迅速に実行し、競争優位を維持することができます。
セキュリティと AI ツールの柔軟な利用の両立
AI の利便性がもたらされる一方で、情報セキュリティも法律事務所が AI ツールを導入する際の重要な考慮点となっています。林香君弁護士は、「当事務所ではクライアントのデータの安全性とプライバシー保護を非常に重視しており、弁護士にはクライアントに対する相談秘密義務が課されているため、これは個人情報保護法への対応だけでなく、専門的倫理の最低ラインでもあります」と強調します。現在、事務所にはAI利用に関する明確な規則があり、簡単な契約書や翻訳文書、プレゼン資料の作成であっても、識別情報が除去されていない原始データをいかなるAIツールにもアップロードしてはならないと定められています。しかし、彼女は「現在のところ、識別情報の除去(匿名化)技術は実務上まだ難しく、完全に復元不可能であることを保証できない」とも率直に述べています。林弁護士はさらに、将来的に政府が秘密保持義務を負う機関に対し、機密データをAIツールで処理する際の規制や指針を設ける可能性がある一方で、法律事務所においてはクライアントの機密情報を AI ツールで扱う際には、より高いレベルの自律的管理意識と対応策が求められると指摘しています。
現時点では、オンプレミス(地元設置型)の AI システムを採用することで、データ漏洩リスクを一時的に解決できる可能性があります。オンプレミスとは、企業が自社のサーバーやインフラ上に AI ソリューションを導入・運用する形態を指します。常在国際法律事務所では、台湾のテクノロジー企業・メディアテック(MediaTek)が独自開発した生成型AIプラットフォーム「MediaTek DaVinci」を採用しています。林香君弁護士は、「DaVinci の強みは、データを完全にオンプレミスのサーバーで処理できるため、第三者のクラウドプラットフォームへのアップロードを避けられ、潜在的なデータ漏洩リスクを軽減できる点にあります。また、現状、多くの AI ツールは英語の言語モデルを使用しているため、繁体字中国語の処理精度が十分でない場合が多いですが、繁体字中国語の言語モデルを用いることで、より正確な文書作成が可能になります」と述べています。AI ツールは弁護士の業務負担を一定程度軽減できるものの、林弁護士は「AI ツールを利用する際には『garbage in, garbage out』(入力が悪ければ出力も悪い)の原則を常に意識し、誤情報や虚偽情報に注意しなければならず、最終的には人間による実地確認で情報の品質と正確性を確保する必要がある」と繰り返し強調しています。
より大規模なデータ管理のニーズに対応するため、Steven Wang は「ハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)」構造をバランスの取れた解決策として提案しています。クラウドとオンプレミスの協働モデルを通じて、法律事務所は極めて敏感または機密性の高いデータを自社のローカルサーバーに保持し、非機密のデータはクラウドで処理することが可能となり、情報セキュリティと協働効率の両立を図っています。Steven は「初期導入コストは高いものの、長期的に見れば情報管理の強化だけでなく、部門間の業務柔軟性の向上にもつながり、段階的にデータガバナンスと事業成長の二重の目標を実現できる」と語っています。さらに、GDPR などの厳格化するプライバシー規制に直面する中で、このようなハイブリッド運用モデルが、今後の法律業界におけるデジタル化の主流トレンドとなる可能性があるとも指摘しています。
AI ツールの欧米市場とアジア市場における違い
アメリカ法曹協会(American Bar Association, ABA)が 2024 年に実施した調査によると、AI ツールを使用する法律事務所の割合は大幅に増加し、2023 年のわずか 11 %から2024 年には 30 %に達しました。特に規模の大きい 100 人以上の法律事務所での使用率も同期して増加し、16 %から 46 %に上昇しています。Steven Wang 氏は、北米の大手法律事務所の運営は高度に企業化されており、デジタル化を通じて「クロスセリングの機会(Cross-selling Opportunity)」を実現していると指摘します。これは顧客の履歴や潜在的なニーズに基づき、内部の協力相手を自動的に提案し、事務所が提供できるサービス範囲を拡大するもので、この手法は北米の先進的な法律事務所において一般的になっています。一方で、アジアの法律事務所は多くが個人や部門による手動での調整段階にとどまっており、この種の内部紹介を支援する技術ツールが不足しています。加えて、経営層には最高情報責任者(CIO)、最高技術責任者(CTO)、最高セキュリティ責任者(CSO)、さらには最高知識責任者(CKO)などの新たな専門職が設置されており、これらの専門家が技術戦略や知識管理を担うことで、事務所の運営はより効率的かつ専門的になっています。
アジアの法律事務所におけるデジタル化や AI ツールの受け入れ度合いが低い背景には、情報セキュリティやプライバシーに対する高い懸念があることが挙げられます。Steven氏は、多くのベテランパートナーの保守的な姿勢がデジタルトランスフォーメーションの進行を遅らせていると指摘します。アジアの法律事務所では、AI ツールの利用は主に基本的な文書管理や翻訳に限られ、複雑な契約書の作成や修正は依然として人手に頼っています。しかし、世代交代が進む中で、若手のパートナーが中核的な意思決定者となりつつあり、新たなデジタルツールの導入に積極的であることが、アジアの法律事務所の変革にとって大きなチャンスとなっています。
AI は弁護士の武器であり、法律事務所の競争の転換点でもある
法律業界における AI の活用は急速に拡大しており、効率化の強力なツールとしてだけでなく、日常業務に広く応用され、さらにはクライアントから求められる作業条件にもなりつつあります。林香君弁護士は、ヨーロッパのクライアントが英国の法律事務所に大規模な債務契約の整理を依頼し、AIを用いた条項の要約を明確に要求した事例を共有しました。かつては複数の弁護士が数百時間を費やしていた作業が、現在では AI が数分で初稿を作成し、その後ベテラン弁護士が迅速に確認することで、処理時間を大幅に短縮し全体の効率を向上させています。しかし、これは弁護士の従来の料金体系にも挑戦をもたらしています。
法律事務所は長年にわたり「時間単位の請求」を主流としてきましたが、AI ツールによって作業時間が大幅に短縮されると、従来の請求方法は時代にそぐわなくなってきています。林香君弁護士は、「現在、多くの欧米の法律事務所では、AI にかかるコストをどのように合理的に料金に反映させるかを積極的に議論しています。例えば、サブスクリプション料金として分割する方法や、『価値に基づく請求(Charge by Value)』への移行です。弁護士はもはや単に時間を売るのではなく、洞察に満ちた成果や意思決定の価値を提供するようになっており、これは欧米市場で既に進行中の動きであり、台湾でも近い将来に起こるでしょう」と述べています。
AI の潮流の中で、スティーブンは強調します。AI は単なるツールではなく、弁護士にとって重要な「武器」であると。しかし、AI の効果を真に発揮するためには、法律事務所がまず二つのことをしっかり行わなければなりません。一つはすべてのデータを「保存」すること、もう一つは「行動」に移し、AIを活用して知識や提案を抽出することです。データ駆動型のモデルを通じて、これは法律事務所が国際的な訴訟や厳しい規制の課題に直面する際に、最も重要な競争優位となるでしょう。AI は弁護士の働き方を変革し続け、法律サービス産業をデジタル化と価値重視の新たな段階へと推進し、法律の新時代へと導いていきます。
在野法潮のインタビューのご依頼、誠にありがとうございました。
原文のリンクはこちらです:https://dissent.tba.org.tw/special/4848/
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